幹細胞培養上清は、ヒトの幹細胞を培養する過程で製造される培養液の上澄みのこと。この上澄み液には幹細胞から分泌されたサイトカインやエクソソーム、その他のタンパク質などの機能性成分(生理活性物質)が豊富に含まれています。これらの成分を投与することで、疾患によりダメージを受けた組織を修復したり年齢とともに衰えた細胞の活性化を促し、健康回復や美容に対する効果が期待できます。
さまざまな種類がある幹細胞の中でも間葉系幹細胞と呼ばれるグループは、非常に豊富な機能性成分を分泌します。脂肪組織由来、乳歯歯髄由来、臍帯由来、羊膜由来、骨髄由来などの幹細胞がこのグループに属します。
培養上清には非常に多くの物質が含まれていますが、なかでもサイトカインとエクソソームが注目され多くの研究が進められています。
細胞に情報を伝え、さまざまな効果を発揮する非常に小さなタンパク質です。現在まで数百種類のサイトカインが発見されており、間葉系幹細胞も細胞の種類により数十から二百種類ほどのサイトカインが含まれています。
サイトカインを受け取る細胞側には、それぞれのサイトカインをキャッチする個別の構造があり受容体と呼ばれています。サイトカインと受容体は「鍵と鍵穴の関係」に例えられる厳密な相性があり、これはヒトでは個人差なく共通ですが動物種が異なると適合しません。だからこそ「ヒト由来のサイトカイン」は人体への治療効果が最も期待できることになります。
ヒトEGF(上皮成長因子)の構造
*Epidermal Growth Factor; PDB-101 より引用
マウスEGF(上皮成長因子)の構造
*Epidermal Growth Factor; PDB-101 より引用
細胞から放出される膜に包まれた袋状の構造で、細胞外小胞(Extracellular Vesicle)とも呼ばれます。その中には、非常に多くのタンパク質・脂質・RNAなどの分子が入っており、エクソソームが細胞に取り込まれると、これらの分子も同時に取り込まれます。エクソソームのなかに含まれる成分は、それを放出する細胞の種類や状態によって異なることが明らかになっています。
サイトカインと異なるルートでの細胞への情報伝達の手段として、エクソソームが重要な役割を果たしていることが報告されています。近年これまでの医学の常識をくつがえす発見もなされ、エクソソームの医学応用が盛んに研究されており、次世代の再生医療を担う可能性も大いに期待されています。
以前は、幹細胞が疾患や老化により損傷した細胞と置き換わることで、さまざまな疾患に対して治療効果を発揮すると考えられていました。しかし、最近の研究では、幹細胞療法において間葉系幹細胞が分泌する機能性成分が、周囲の細胞に働きかけて修復していることが明らかになっています。機能性成分(サイトカインやエクソソームなど)が周囲の細胞に働きかけることを、パラクライン効果と呼びます。培養上清療法は、幹細胞そのものは含まずに、幹細胞療法におけるパラクライン効果だけを取り出して活用する治療法と言えます。
培養上清療法は幹細胞が含まれていないため、現在の国内の法律(再生医療等安全性確保法)では再生医療には分類されていません。しかしながら、幹細胞を必要としない無細胞治療として次世代の再生医療の主役となる可能性が期待されています。
培養上清の組成(培養上清を構成する成分)は幹細胞の種類や培養の条件などにより大きく異なります。したがって、治療効果を期待するためには厳密な安全管理・環境管理のもとでの細胞培養による製造が非常に重要となります。当院では細胞加工施設と共同での研究体制を構築し、製造から臨床まで一貫して培養上清治療を実施しています。
幹細胞培養上清によるさまざまな疾患に対する有効性が報告されています。 |
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